生物学最新トピックス
生物学最新トピックス
更新:2004/03/--
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紹介論文は一人、月、1〜3本が目安です。紹介論文は仲田まで、簡単な引用とコメントを1〜3行つけて、
毎月15日までに送ってください。(添付ではなく、メールの本文に貼り付けてください)
No.5 (2004年2・3月号)
No.4 (2004年1月号)
No.3 (2003年12月号)
No.2 (2003年11月号)
No.1 (2003年10月号)
- 動物学(柿原研・仲田崇志)
- Wu, S., Huang, J., Dong, J. & Pan, D. hippo encodes a Ste-20 family protein kinase that restricts cell proliferation and promotes apoptosis in conjunction with salvador and warts. Cell 114, 445-456 (2003).
器官の大きさの決定に関与する分子メカニズムの論文。細胞数異常の表現型を示す突然変異体スクリーニングを行い、アポトーシスと細胞増殖の関係を調節する遺伝子のシグナルカスケードを明らかにした。(柿)[PubMed]
- Kimchi, T., Etienne, A. S. & Terkel, J. A subterranean mammal uses the magnetic compass for path integration. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 1105-1109 (2004).
メクラネズミの定位法の研究。哺乳類は外部の目印がなくても姿勢や運動方向を感知して移動経路を認識できるが、それだけでは誤差が蓄積する。今回、迷路実験からメクラネズミが地磁気を利用して移動経路を知覚していることが示された。(仲)[PubMed]
- 植物学(玉置裕章)
- Haecker, A. et al. Expression dynamics of WOX genes mark cell fate decisions during early embryonic patterning in Arabidopsis thaliana. Development 131, 657-668 (2004).
 植物の発生は胚発生と胚発生後の発生(分裂組織による発生)に分けられる。今回の論文では、後者を制御する遺伝子と似たホメオドメインを持つ WOX2 、WOX9 遺伝子などが、接合子時から発現し、初期発生における極性形成に重要な働きをしていることが示された。今まで不明だった植物の初期胚発生の手がかりの一つと考えられる。[PubMed]
- Juarez, M. T. et al. microRNA-mediated repression of rolled leaf1 specifies maize leaf polarity. Nature 428, 84-88 (2004).
高等植物の葉の表裏の特性は、hd-zipIII 遺伝子群の極性を持った発現による。今回の論文は、miRNA166 の発現パターンが、トウモロコシの hd-zipIII 遺伝子群の rolled leaf1 の発現領域を限定すると述べている。また、miRNA166 が初期の葉の下部から生じる移動性シグナルである可能性が示唆された。[PubMed]
- 進化学(仲田崇志)
- Mori, K., Kim, H., Kakegawa, T. & Hanada, S. A novel lineage of sulfate-reducing microorganisms: Thermodesulfobiaceae fam. nov., Thermodesulfobium narugense, gen. nov., sp. nov., a new thermophilic isolate from a hot spring. Extremophiles 7, 283-290 (2003).
宮城県の温泉から分離された好熱性の硫酸還元菌、Thermodesulfobium narugense を新科新属新種として記載した論文。DNA 配列から描かれた系統樹を見ると、門のレベルで独自の生物である可能性が高い。[PubMed]
- Liu, Z. et al. A primitive Y chromosome in papaya marks incipient sex chromosome evolution. Nature 427, 348-352 (2004).
パパイヤにおいて、分化を始めたばかりの性染色体を発見した論文。パパイヤの Y 染色体では、雄決定遺伝子の周辺(染色体の約 10 %)のみで組み替えの抑制と遺伝子の退化が起こっており、これが XY 染色体分化の初期状態と考えられた。[PubMed]
- Barkman, T. J., Lim, S.-H., Salleh, K. M. & Nais, J. Mitochondrial DNA sequences reveal the photosynthetic relatives of Rafflesia, the world’s largest flower. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 787-792 (2004).
世界最大の花を持つラフレシアの系統を mtDNA から示した論文。寄生性植物は葉緑体を持たず rRNA も異常で、系統解析が困難だった。今回、従来の定説を覆し、ラフレシアがスミレを含むキントラノオ目に近縁だと分かり、ラフレシアの起源に再考を迫られた。[PubMed]
- 医学系(仲田崇志)
- Hallem, E. A., Fox, A. N., Zwiebel, L. J. & Carlson, J. R. Mosquito receptor for human-sweat odorant.Nature 427, 212-213 (2004).
ハマダラカ(マラリアの媒介蚊)の嗅覚受容体 AgOr1 の研究から、ハマダラカの雌がヒトの汗中の 4-methylphenol を認識していることが示されている。この受容体を標的とした、効果的な捕虫トラップや防虫剤の開発が期待される。[PubMed]
- Iwata, M. et al. Presynaptic localization of neprilysin contributes to efficient clearance of amyloid-β peptide in mouse brain. J. Neurosci. 24, 991-998 (2004).
アルツハイマー病で脳内に蓄積する amyloid-β peptide(Aβ)の分解酵素 neprilysin を、Aβ を蓄積する変異マウスに遺伝子導入したところ、Aβ の蓄積が抑えられたとする報告。アルツハイマー病の遺伝子治療への応用が期待される。[PubMed]
- Zou, W.-Q. et al. Antibody to DNA detects scrapie but not normal prion protein. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 1380-1385 (2004).
病原性プリオンの同定法の研究。プリオンと複合体を作る DNA に対する抗体をスクリーニングしている。この抗体を用いれば、正常型プリオンと異常型プリオンが識別できるとのこと。[PubMed]
- その他(仲田崇志)
- Thomas, C. D. et al. Extinction risk from climate change. Nature 427, 145-148 (2004).
将来の気候変動シナリオに基づいて生物種の絶滅リスクを推測した論文。モデルとして用いた地域(地球表面の約 20 %をカバーしている)において 15〜37 %もの生物種が温暖化により絶滅することが予測されたため、早急な温室効果ガス対策を主張している。[PubMed]
- Wagner, U. et al. Sleep inspires insight. Nature 427, 352-355 (2004).
睡眠がひらめきを引き起こすことを示唆した実験。著者らは、被験者が課題の中からパターンを見つけられるかのテストを行った。トレーニングを受けた場合に限り、8 時間の睡眠の後、発想を得る確率が有意に上がったとしている。[PubMed]
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- 動物学(柿原研・津田佐知子)
- Li, X. et al. Eya protein phosphatase activity regulates Six1-Dach-Eya transcriptional effects in mammalian organogenesis. Nature 426, 247-254 (2003).
Drosophila melanogaster の遺伝学的な解析から、眼の形成に必要な遺伝子カスケードとして sine oculis(so)、eyes absent(eya)、dachshund(dac)が核内の co-factor として必要であることがわかっている。この論文ではこれらの 3 つの遺伝子の転写制御機構を明らかにし、内耳、腎臓、下垂体、筋形成に必要であることをマウスの系で示した論文。(柿)[PubMed]
(編集注:原論文の第 2 著者の苗字に訂正あり。Li, X. et al. Nature 427, 265 (2004).)
- Nef, S. et al. Testis determination requires insulin receptor family function in mice. Nature 426, 291-295 (2003).
Ir、Igf1r、Irr protein をトリプルノックアウトしたマウスを用いることで、Sry より遺伝学的に上流の雄決定因子が確認された論文。(柿)[PubMed]
- Serizawa, S. et al. Negative feedback regulation ensures the one receptor-one olfactory neuron rule in mouse. Science 302, 2088-2094 (2003).
マウスの嗅覚系では、嗅覚神経は嗅覚受容体(OR)遺伝子クラスタの一つの遺伝子を選択的に発現しており、これを基に、嗅覚神経は脳の嗅球に軸索を投射している。今回、この選択的発現制御に関わると考えられる、OR 遺伝子の上流の cis-acting な DNA 領域が同定された。また、発現していた OR 遺伝子の coding resion の欠損により、次の OR 遺伝子発現が引き起こされることが分かった。これらにより、1 受容体 1 ニューロン律には、一つの OR 遺伝子の確率的発現と、OR 遺伝子産物による負のフィードバック調節が必要であることが示唆された。(津)[PubMed]
- 植物学(玉置裕章)
- Searle, I. R. et al. Long-distance signaling in nodulation directed by a CLAVATA1-like receptor kinase. Science 299, 109-112 (2003).
マメ科植物において、根粒の基となる器官の形成は、autoregulation of nodulation(AON)と呼ばれるシュート・根間のシグナルによって制御されている。この AON シグナルの制御因子として、receptor-like protein kinase GmNARK が同定された。この因子は幹細胞の制御に関わり、近距離で働くシロイヌナズナの CLAVATA1 に相同性があった。[PubMed]
- Chen, J.-G. et al. A seven-transmembrane RGS protein that modulates plant cell proliferation. Science 301, 1728-1731 (2003).
G タンパク質共役型受容体は主に動物に存在するが、植物でも見つかった。AtRGS1 はG タンパク質 α サブユニットを分解してシグナル伝達を止める新規の植物の Regulators of G protein signaling(RGS)protein であり、これに異常が起こると α サブユニットが活性化され、根の成長が促進される。このように、AtRGS1 は植物細胞の増殖に必須な因子であると考えられる。[PubMed]
- 進化学(仲田崇志)
- Dial, K. P. Wing-assisted incline running and the evolution of flight. Science 299, 402-404 (2003).
Bundle, M. W. & Dial, K. P. Mechanics of wing-assisted incline running (WAIR). J. Exp. Biol. 206, 4553-4564 (2003).
ある種の鳥が、翼を利用して斜面や木の幹を駆け上がる行動を観察・報告した論文とそれを細かく解析した論文。鳥の翼は駆け上がり行動の補助のために進化し、後に飛翔に用いられるようになったとする新仮説を提唱している。[PubMed][PubMed]
- Aris-Brosou, S. & Yang, Z. Bayesian models of episodic evolution support a late Precambrian explosive diversification of the Metazoa. Mol. Biol. Evol. 20, 1947-1954 (2003).
後生動物の分化が先カンブリア代の末期に起こったことを分子系統解析から推定した論文。Bayesian モデルを用いて従来より優れた解析を行い、化石記録で有名な「カンブリア紀の大爆発」を支持する結果を導き出している。[PubMed]
- Buckling, A., Wills, M. A. & Colegrave, N. Adaptation limits diversification of experimental bacterial populations. Science 302, 2107-2109 (2003).
Pseudomonas fluorescens を用いた実験から、特定の環境に過度に適応した生物は、代償として多様な形質を進化させる能力を失うということを示している。[PubMed]
- 医学系(仲田崇志)
- Hisaeda, H. et al. Escape of malaria parasites from host immunity requires CD4+CD25+ regulatory T cells. Nat. Med. 10, 29-30 (2004).
ネズミに感染するマラリア原虫を用いた研究から、マラリア原虫が CD4+CD25+ regulatory T-cell (Treg)を活性化することにより宿主の免疫を抑えていることを示した研究。実験では Treg を抑えることによりマラリアによるマウスの死亡を抑えている。[PubMed]
- Kawakami, T., Okamoto, K., Ogawa, O. & Okada, Y. XIST unmethylated DNA fragments in male-derived plasma as a tumour marker for testicular cancer. Lancet 363, 40-42 (2004).
血清中に存在する、精巣癌のマーカーを同定した研究。男性では通常 XIST 遺伝子の 5’ 末端はメチル化されているが、癌細胞の DNA では低度のメチル化しか受けない。血液中のそのような DNA 断片により精巣癌が診断できると見られる。[PubMed]
- その他(仲田崇志)
- Smith, H. O., Hutchison III, C. A., Pfannkoch, C. & Venter, J. C. Generating a synthetic genome by whole genome assembly: φX174 bacteriophage from synthetic oligonucleotides. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 15440-15445 (2003).
5- から 6-kbp の DNA を極めて短時間で人工合成した論文。合成されたファージの DNA は大腸菌に対する感染性を持っていた。このような DNA を約 60 個つなげる事により、生物に必要最低限の遺伝子を持ったゲノムが合成できるとしている。[PubMed]
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- 動物学(柿原研)
- Mitsui, K. et al. The homeoprotein Nanog is required for maintenance of pluripotency in mouse epiblast and ES cells. Cell 113, 631-642 (2003).
これまでのところ、ES 細胞の全能性を保つために必要な分子は LIF(Leukemia inhibitory factor)シグナルとその下流因子である Stat3 であると考えられてきた。この論文では、LIF とは独立に Nanog タンパク質が ES 細胞の内胚葉分化を阻害していることを示した。[PubMed]
- Copp, A. J., Greene, N. D. E. & Murdoch, J. N. The genetic basis of mammalian neurulation. Nat. Rev. Genet. 4, 784-793 (2003).
哺乳類の神経管形成に関わるこれまでの仕事のレビュー。[PubMed]
- 植物学(玉置裕章)
- Reinhardt, D. et al. Regulation of phyllotaxis by polar auxin transport. Nature 426, 255-260 (2003).
高等植物の多くは、葉が茎に対して螺旋状に生えている(螺旋葉序)。螺旋葉序の場合、隣同士の葉が成す角度は、どの植物でもある一定の範囲におさまっており、何らかの制御が関わっていることが以前から示唆されていた。今回の論文は、主要な植物ホルモンであるオーキシンが、このような葉の配置に深く関わっていると述べている。オーキシンは、葉のできる部分(茎頂)に向かって表皮の中を運ばれ、葉の基(葉原基)に行き着き、その葉原基に入ってから再び茎頂に出て行く。この際、オーキシンの分布が変化し、次の葉の予定位置にオーキシンが集まり、次の葉の発生が始まる。オーキシンを移動させるタンパク質の局在もこの結果と矛盾しなかった。[PubMed]
- 進化学(仲田崇志)
- Hanczyc, M. M., Fujikawa, S. M. & Szostak, J. W. Experimental models of primitive cellular compartments: encapsulation, growth, and division. Science 302, 618-622 (2003).
生物の起源において、細胞の膜胞がどのように進化したのかについて、実験的な検証を行った研究。核酸の取り込みを粘土鉱物が触媒すること、膜胞が脂質を取り込んで成長すること、微細な孔を通過することで分裂が起こり得ることなどが示されている。[PubMed]
- Osteryoung, K. W. & Nunnari, J. The division of endosymbiotic organelles. Science 302, 1698-1704 (2003).
ミトコンドリアと葉緑体の分裂のメカニズムに関して、現在までに分かっている知見を比較したレビュー。[PubMed]
- Zarrinpar, A., Park, S.-H. & Lim, W. A. Optimization of specificity in a cellular protein interaction network by negative selection. Nature 426, 676-680 (2003).
酵母の複数のタンパク質が持つ Src ホモロジー 3(SH3)ドメインが、それぞれ特定の相手のみと相互作用し、他の SH3 ドメインの相手とは相互作用しないように、負の選択を受けていることが、Pbs2 ペプチドと Sho1 タンパク質の研究から示されている。[PubMed]
- 医学系(柿原研・仲田崇志)
- Boshoff, H. I. M., Reed, M. B., Barry III, C. E. & Mizrahi, V. DnaE2 polymerase contributes to in vivo survival and the emergence of drug resistance Mycobacterium tuberculosis. Cell 113, 183-193 (2003).
Mycobacterium tuberculosis(結核菌)の通常の培養条件における突然変異率は他の微生物と同程度であることは確認されてたが、環境ストレス下での変異率はこれまで観察されてこなかった。この論文では fidelity の低い DNA polymerase が薬剤耐性の獲得に関与していることを示している。薬剤耐性獲得に関わる機構そのものをターゲットとした薬剤開発という道への一つのアイディアを示すことになるかもしれない。(柿)[PubMed]
- Batterham, R. L. et al. Inhibition of food intake in obese subjects by peptide YY3-36. N. Engl. J. Med. 349, 941-948 (2003).
消化管ホルモンのペプチドの一部(PYY)が、食欲を抑え、食物の摂取量を減らす効果があるとの報告。同様の効果は leptin と言うホルモンでも知られていたが、肥満者は leptin に耐性を持っており実用性に乏しかった。対して PYY は肥満者にも効果があり、肥満治療への応用が期待される。(仲)[PubMed]
- その他(仲田崇志)
- Chaudhuri, S. K. & Lovley, D. R. Electricity generation by direct oxidation of glucose in mediatorless microbial fuel cells. Nat. Biotechnol. 21, 1229-1232 (2003).
自らの成長のためにグルコースを酸化すると同時に、電極に電子を供給して発電することもできる細菌の報告。農業・産業などの廃棄物、あるいは産物として得られる炭水化物をエネルギーとして有効活用することに利用できる可能性がある。[PubMed]
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- 動物学(柿原研)
- Knout, H. et al. A zebrafish homologue of the chemokine receptor Cxcr4 is a germ cell guidance receptor. Nature 421, 279-282 (2003).
動物細胞は動くという点で植物細胞と大きく異なった属性を一般的に有しています。多細胞生物では、体細胞と生殖細胞という2種類に細胞を分類することができ、体細胞は個体の体を構成する要素となり、生殖細胞は次の世代をつくるために用いられます。受精卵が分裂し、成体となるまでに、動物では細胞が初期の位置から移動して成熟します。生殖細胞も例外ではなく、最終的には生殖腺へと移動し分化します。この論文では生殖細胞で初めてレセプター・リガンドレベルでの細胞誘導の説明がなされました。[PubMed]
- Wu, L. et al. Extra-embryonic function of Rb is essential for embryonic development and viability. Nature 421, 942-947 (2003).
Rb(Retinoblastoma)遺伝子はガン抑制遺伝子として初めて同定された遺伝子で、Rb mutant マウスは細胞周期の異常から胎児期に死亡します。Rb 遺伝子は存在の発見より機能が丹念に調べられてきていますが、この論文では近年用いられるようになった tetraploid aggregation(4倍体凝集)と conditional knockout により、胎盤形成異常に起因する発生不全を除き、より本質的な Rb の機能解析をしています。遺伝子が多重機能をもつというのが常識となった今、knockout の欠点を補う方法による遺伝子機能の再検討が最近多くなってきています。[PubMed]
- Herzig, S. et al. CREB controls hepatic lipid metabolism through nuclear hormone receptor PPAR-gamma. Nature 426, 190-193 (2003).
飢餓状態と脂質代謝には関係があり、血液成分に応じて遺伝子発現パターンの変化が起きます。この論文では CREB(cAMP Response Element Binding protein)が核内レセプターである PPAR-gamma(peroxisome-proliferator-activator)を介して代謝関連遺伝子を調節していることを示しました。背景として、CREB(-/-)マウスは脂肪肝であることから、脂質関連遺伝子は CREB の支配下にあると考えられていました。しかし、実際には機能遺伝子の cis 配列には予想された CRE 配列は存在せず、別の経路による調節が示されたことが Nature に掲載された理由かと思います。[PubMed]
- 植物学(玉置裕章)
- Friml, J. et al. Efflux-dependent auxin gradients establish the apical-basal axis of Arabidopsis. Nature 426, 147-153 (2003).
胚発生初期において、植物の上下軸(頂端―基部軸)の決定が、植物ホルモンであるオーキシンによって制御されていることが解明された。胚発生の際の不等分裂により、基部の細胞(オーキシンを送る)と頂端の細胞(オーキシンに反応する)ができる。このようなオーキシン活性の勾配は、基部の細胞に局在したオーキシンを流出させる PIN7 によって維持され、頂端の細胞の胚構造への分化を引き起こす。この過程の後、PIN7 の局在が逆転し、PIN1(オーキシンのキャリアータンパク質)の極性的局在が開始することにより、新しいオーキシンの勾配が形成され、基部の細胞の根端組織への分化が始まる。[PubMed]
- Limpens, E. et al. LysM domain receptor kinases regulating rhizobial Nod factor-induced infection. Science 302, 630-633 (2003).
マメ科植物に共生する根粒菌の感染は、根粒菌から宿主に渡される Nod 因子によって誘導される。この Nod 因子は宿主特異性が強く、この因子の受容体も特異性が強いと考えられる。エンドウから単離された SYM2 遺伝子は、このような受容体の候補となりうる。そこで、モデル植物である Medicago truncatula において SYM2 のオーソログ領域にある遺伝子を調べたところ、LysM ドメインを含む受容体キナーゼが7種類見つかった。このうち2つの遺伝子が感染糸(根粒菌感染の初期応答の際にできる構造)の形成に関係することが判明した。このことから、LysM ドメインを含む遺伝子は、Nod 因子の受容体であるということが示唆される。[PubMed]
- 進化学(仲田崇志)
- Biju, S. D. & Bossuyt, F. New frog family from India reveals an ancient biogeographical link with the Seychelles. Nature 425, 711-714 (2003).
カエルの新科新属新種の記載論文。この Nasikabatrachus はかなり古くに分岐した系統で、生きた化石とも対比される。カエルの新科の記載はおよそ80年ぶり。[PubMed]
- Lehman, N. A case for the extreme antiquity of recombination. J. Mol. Evol. 56, 770-777 (2003).
DNA の組み換えの機構は原核、真核生物を問わず広く分布することから、その起源は生命の起源にまで遡り、原始生命においては DNA の伸長のために機能していたと考察しているレビュー論文。[PubMed]
- Gavrilets, S. Models of speciation: what have we learned in 40 years? Evolution 57, 2197-2215 (2003).
種の分化がいかにして起こるのか、という命題に関する数理的研究のレビュー。特に、これまでのシミュレーション中心の研究から、解析的な研究へのシフトの重要性が主張されている。[PubMed]
- Tovar, J. et al. Mitochondrial remnant organelles of Giardia function in iron-sulphur protein maturation. Nature 426, 172-176 (2003).
これまでミトコンドリアを持たない原始的な真核生物とされてきた Giardia が、実はミトコンドリアの残骸を持っていることを示した論文。この細胞小器官は、鉄-硫黄クラスターの合成に機能しているとされる。これにより、既知の真核生物でミトコンドリアを持たない(持ったことがない)ものはいなくなった。[PubMed]
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- 動物学(柿原研)
- Bantignies, F. et al. Inheritance of Polycomb-dependent chromosomal interactions in Drosophila. Genes Dev. 17, 2406-2420 (2003).
クロマチン構造と転写活性については、ようやく知見が蓄積しつつあります。Cellular Memory Module と呼ばれる DNA の要素が、発生の過程における転写制御に関わっていると考えられています。trans のクロマチン構造修飾が細胞分裂の際に保たれることを、遺伝子導入の系によって示した仕事です。[PubMed]
- Kuersten, S. & Goodwin, E. B. The power of the 3' UTR: translational control and development. Nat. Rev. Genet. 4, 626-637 (2003).
発生初期の胚においては、母親由来のメッセージの濃度勾配が転写の制御に関わっていることが知られています。これらのメッセージの制御に 3' UTR がどのようにかかわっているかについてのレビュー記事です。最近わかってきた、様々な翻訳前調節についての概説となっています。[PubMed]
- Epinat, J.-C. et al. A novel engineered meganuclease induces homologous recombination in yeast and mammalian cells. Nucleic Acids Res. 31, 2952-2962 (2003).
通常の制限酵素よりも長い配列を認識するエンドヌクレアーゼの一群が存在します。これらは、ブラント末端を形成し、相同組み換えの頻度を上げると考えられています。遺伝子導入およびジーンターゲティングの新しい方法の紹介論文です。[PubMed]
- 植物学(玉置裕章)
- Kuroda, H. & Maliga, P. The plastid clpP1 protease gene is essential for plant development. Nature 425, 86-89 (2003).
葉緑体は独自の遺伝子・その転写/翻訳系・生合成系を持つ。胚や芽生えの形成に必須な核遺伝子は、葉緑体の生成に必要とされてきたが、葉緑体の遺伝子が欠失して表現型に変化があらわれる例は今まで無かった。今回の論文では、protease である cplP1 gene によるタンパク質分解系がシュートの形成に必須であると述べている。[PubMed]
- Palatnik, J. F. et al. Control of leaf morphogenesis by microRNAs. Nature 425, 257-263 (2003).
JAW 座位にある microRNA が葉の形態形成に関わる TCP gene の mRNA を開裂により活性を失わせて制御している。この TCP gene には、microRNA のターゲット部位があり、この配列は種を超えて広く見つかっている。[PubMed]
- 進化学(仲田崇志)
- Dupanloup, I. et al. A recent shift from polygymy to monogamy in humans is suggested by the analysis of worldwide Y-chromosome diversity. J. Mol. Evol. 57, 85-97 (2003).
Y 染色体の多型の集団遺伝学的解析から、ヒトが最近になって、おそらくは移動生活から定住生活への移行に伴って、一夫多妻から一夫一妻の生殖スタイルに移行したことが示されたとする論文。[PubMed]
- Skouloubris, S., de Pouplana, L. R., de Reuse, H. & Hendrickson, T. L. A noncognate aminoacyl-tRNA synthetase that may resolve a missing link in protein evolution. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 11297-11302 (2003).
Gln-tRNAGln の合成において、tRNAGln に Gln を直接結合させる生物と、Glu を結合させてからこれを Gln に置換する生物が存在する。この中間型のアミノアシル tRNA 合成酵素がピロリ菌などで見付かり、tRNA の進化過程が明らかになったとする論文。[PubMed]
- Parker, G. A., Chubb, J. C., Ball, M. A. & Roberts, G. N. Evolution of complex life cycles in helminth parasites. Nature 425, 480-484 (2003).
寄生性の蠕虫類の複雑な生活史が、単純な生活史に新たな宿主を追加または挿入することで成立したと仮定し、それを蠕虫類の適応度の観点から理論的に検証した論文。[PubMed]
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