葉緑体は、シアノバクテリアが真核細胞に共生して誕生しました。
これを一次共生といいます。緑藻(陸上植物も含む)、紅藻、灰色藻が
一次共生藻類です。
ところが、緑藻や紅藻を丸ごと取り込んで葉緑体にしてしまった
生き物も存在します。これら二次共生藻類には褐藻や珪藻など
様々な藻類が含まれます。赤潮の原因ともなる渦鞭毛藻類の仲間には
二次共生藻を取り込んだ三次共生藻もいると考えられています。
一次共生藻は、先カンブリア時代にはおそらく既に存在し、
古生代には緑藻などが海洋では優先していたそうです。
ところが、古生代末の大絶滅を期に、緑藻(や緑藻を取り込んだ二次共生藻)は
マイノリティになってしまいます。代わりに中生代以降の海洋を制圧したのは、
紅藻を共生させた珪藻や渦鞭毛藻、ハプト藻などでした。
何故、紅藻系の藻類が海洋の覇者になったのかを説明する仮説が
最近発表されました(Portable Plastid Hypothesis)。
葉緑体ゲノムが調べられている藻類で、
葉緑体に乗っている遺伝子の数を調べた結果、紅藻では緑藻に比べて
より多くの重要な遺伝子を葉緑体中に保持していることが解りました。
緑藻ではこれらの遺伝子は核に移されていて、合成されたタンパク質が
葉緑体に運ばれるようになっています。
つまり、緑藻の葉緑体を取り込むためには、葉緑体のみならず、
取り込んだ緑藻の核遺伝子を使いこなさなければなりません。
このことが、緑藻を取り込むことをより困難なものにしていたと考察されています。
一方で紅藻を二次共生させることは比較的容易であった
(葉緑体とそこにコードされている遺伝子だけを取り出して使えば良かったため)
ことから、より多くの系統で共生が起こったと予想されます。
その結果、より優秀な真核生物が紅藻を取り込み、
海洋の光合成真核生物の中で優先するようになったものと主張しています。
この論文は、少し話を単純化しているようですが、
生物の歴史の中で何が起こったのかをゲノム解析から読みとろうとする姿勢が
面白いと感じました。
真核生物・藻類の歴史に興味がある人にはお薦めです。
Reference