人にあらざるヒト

Last updated on Sunday 20th July 2003


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仲田 Date: 2003.06.04 Wed 18:44:36

ネアンデルタール人という絶滅人類がいます。 彼らは先史時代のヨーロッパに住み,クロマニヨン人と呼ばれる現代型人類と共存していたと言われています。
ネアンデルタール人は現代人と同種なのか別種なのかについては長らく議論があり,最近,ネアンデルタール人のミトコンドリア DNA を用いた研究から,ネアンデルタール人が現代人とは別種であることが強く示唆されていました。 ところが,これまでの研究ではネアンデルタール人と今生きている人間の DNA が競べられていて,クロマニヨン人の時代に既に種分化が起こっていたのかどうかが断言できませんでした。 そんな中,最新の PNAS に発表された論文ではネアンデルタール人とほぼ同時代のクロマニヨン人の DNA が解読,比較され,クロマニヨン人が現代人とごく近い仲間であり,ネアンデルタール人とは大きく異なることが確認されました。 ただし,今まで調べられているのはミトコンドリアの遺伝子の一部だけなので,現代人の核遺伝子にはネアンデルタール人の遺伝子が伝わってきている可能性が排除し切れません。 他に気になる点としては,この論文で調べられたクロマニヨン人はわずか2人分で,比較されたネアンデルタール人も4人しかいない(これまでにシーケンスされた全員)ことがあります。高々数人の比較で当時の人類集団全員を反映させるのは危険があるでしょう。
これとは別に,Nature にこの論文への批判が紹介されていました。 化石の DNA を調べる際に一番問題視されるのは DNA のコンタミです。ネアンデルタール人の場合,出てきた配列が現代人と全然違う訳ですからコンタミの可能性は容易に排除できます。 しかし,クロマニヨン人の場合,でてきた現代人型の配列が本当に化石由来のものか断言が出来ないというのです。 もちろん,原論文の著者もコンタミの可能性は慎重に検討しており,例えば,化石を扱った人物の配列などとの比較も行っています。 読む限り,原論文ではコンタミの可能性は十分に排除されており,他の化石でも再現性がとれれば,信頼に足るデータと見なせるように思います。 例えその試料だけで断言が出来なくとも,同じデータが複数のチーム,化石,発掘地で得られれば総合的に確実性の高い議論をすることは可能なはずで,この研究にはその先駆けとしての価値が十分にあるでしょう。

Reference
  • Caramelli, D. et al. Evidence for a genetic discontinuity between Neandertals and 24,000-year-old anatomically modern Europeans. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 6593-6597 (2003).
  • Abbott, A. Anthropologist cast doubt on human DNA evidence. Nature 423, 468 (2003).

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