幸運のエメラルド物語 ~色素体の獲得と進化~

2003年7月5日

仲田崇志



 色素体は真核生物に細胞内共生したシアノバクテリアに由来する。

こうして成立した一次共生植物は単系統で、緑色植物、紅色植物、灰色植物の3群よりなる。

ユーグレナ藻やクロララクニオ藻はいずれも緑藻を取り込んで色素体とした二次共生藻である。

クリプト藻、ハプト藻、不等毛藻(褐藻、珪藻などを含む)は、

紅藻を色素体として取り込んだ共通祖先に由来する二次共生藻である

(これらをまとめたグループをクロミスタと呼ぶ)。

渦鞭毛藻はハプト藻を取り込んだ三次共生藻である(①②④⑤⑥⑦)。



 真核生物は Opisthokonta(動物、真菌)、Amoebozoa(アメーバ、粘菌)、

Bikonta(植物、多くの原生生物)に分けられ、Bikonta は 

Rhizaria(有殻アメーバ、クロララクニオ藻、有孔虫など)、

Discicristata(ユーグレナ藻、キネトプラスト類など)、

Alveolata(繊毛虫、アピコンプレクサ類、渦鞭毛藻)、

Chromista(クリプト藻、ハプト藻、不等毛藻、卵菌、サカゲツボカビなど)、

Plantae(灰色植物、緑色植物、紅色植物)よりなる。

光合成生物は上記のように全ての Bikonta のグループに散らばる(①③④)。



 以上のような従来の定説に対して、近年出てきた問題点もある。

まず、一次共生藻は多系統で残りの Bikonta において色素体が失われた可能性が指摘されている。

一次共生藻の系統関係については従来、灰色植物が最初に分岐し、

紅色植物と緑色植物がより近縁とされていたが、

遺伝子組成などを見ると緑色植物と灰色植物の方がより近縁な可能性が高い。

ただし、遺伝子組成を系統解析に用いることには批判もある(⑧⑨⑩⑪)。



 マラリア原虫を含むアピコンプレクサ類が退化した色素体を持つことも知られている。

色素体遺伝子の配置からは、この色素体は紅藻由来とされ、

各コードの遺伝子からは緑藻由来とされる。さらにキネトプラスト類(眠り病病原体を含む)の核や、

有殻アメーバ類の核にも色素体の遺伝子が見つかり、

これら複数の系統で色素体が失われた可能性もある(⑫⑬⑭⑮⑰)。



 なお、キネトプラスト類はユーグレナ藻と同じ Discicristata に属するため、

同じ起源の色素体を持つとの考えもある。しかし、ユーグレナ藻の系統を見ると、

補食性のユーグレナ類の中から光合成をするユーグレナ藻が進化してきたことは明らかで、

キネトプラスト類の色素体遺伝子とユーグレナ藻の色素体は別々の由来であることが分かる(⑯)。



 ごく最近、クロララクニオ藻の研究から、

真核生物の捕食者に餌生物の遺伝子が水平伝播する可能性が示唆された。

アピコンプレクサ類の色素体の起源の問題や、

有殻アメーバ、キネトプラスト類の色素体遺伝子の問題も

遺伝子水平移動により説明出きるかもしれない(⑱)。



 色素体の進化においては、その獲得の過程が最も興味深い。

特に一次共生は色素体の誕生と同義であり、注目に値する。

灰色植物の仲間の色素体は、シアノバクテリアの細胞壁(ペプチドグリカン壁)

を未だに残している原始的なもので、一次共生の過程を調べるために重要である(⑲)。



 藻類の系統関係や共生の過程、回数、などを明らかにするためには、系統樹のみならず、

色素体へのタンパク質輸送機構のような、細胞内共生に関わる機構の分子メカニズムの解明すら

必要となるだろう(⑳)。



Reference

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